この人・この企業
Vol.3
 今回は、伝統工芸品では国内初である団体商標登録をした大館曲ワッパ協同組合伊藤理事長にご登場願いました。

「大館曲げわっぱ」の
    ブランド化を目指して


大館曲ワッパ協同組合
理事長 伊藤 國弘 氏

■■■はじめに、「大館曲げわっぱ」業界の現況について教えて下さい。

 「大館曲げわっぱ」は、全国17ヶ所にある曲物曲輪の産地で唯一、国の「伝統的工芸品」に指定されています。それだけ、歴史があり、かつ、市民を含め多くの家庭で日常生活に利用されていた製品を製作していたわけです。
 しかし、消費者のライフスタイル及びニーズの多様化、さらにはプラスチック製品に市場を奪われ、昭和63年には7億6千万円あった売上高が、現在は3億2千万円程度まで落ち込んでいます。
 また、「大館曲げわっぱ」の製品は、天然秋田杉を原材料にしている事で、美しい柾目がアピールポイントになっていますが、その天然秋田杉の減少による価格の高騰や材質の問題等を抱えています。

■■■業界を取り巻く環境は大きく変化をしていますが、その変化にどの様に対応してきたのでしょうか?

 「大館曲げわっぱ」の命である天然秋田杉の減少は、長年の技法にも大きな影響を及ぼす問題でもあることから、平成10年「新しい素材による製品開発研究事業」において、造林秋田杉を80年物以上で試作をしてみました。結果としては、天然秋田杉の柾目の木目の細やかさには勿論適いませんが、130年以上の造林杉であれば製作が可能でした。
 また、消費者ニーズの多様化等に対しては、平成12年に「意匠開発事業」を実施しました。この事業は、現代社会に対応できる新商品の開発を目指したもので、秋田公立美術工芸短期大学産業デザイン科の2先生からデザイン指導を受け、「伝統の技を暮らしに生かす食、衣、住、遊」をテーマに、木製徳利、フロアスタンド照明、ワインラック、マガジンラック等を試作しました。これまで「曲げわっぱ」は食器類というイメージにとらわれがちであったものが、木材を曲げるという技術を生かせば新たな可能性があることを認識しました。
 平成11年には、「大館曲げわっぱ人材・交流支援センター事業」を実施しました。この事業では、曲げわっぱの将来像や人材育成、交流の拠点整備の青写真を描くための事業でした。報告書では「伝統工芸ゾーン」のテーマパーク構想を提案しました。具体的には「大館樹海ドーム」周辺に、曲げわっぱの体験教室、研修、展示販売、共同加工ができる「伝統工芸館」を建築し、さらに、キリタンポ、秋田犬、秋田桶樽、秋田三鶏などの特産品を網羅できる施設の整備を盛り込みました。報告書は小畑市長にも手渡しましたが、市長からは「中心市街地活性化の視点から施設は街中に」と逆提案されました。人材育成のためにも伝統工芸館は必要であり、組合として大きな目標でもあります。
 現在、人材育成については組合員企業の従業員を対象に伝統工芸士の取得を目指して、年間教育を実施しています。

■■■今回、組合で団体商標登録を取得した経緯を教えて下さい。

 団体商標登録は、平成9年の改正商標法施行で可能になりました。その時に、この制度を活用できないか調査をしたところ、既に市内の業者が昭和47年に「大館曲わっぱ」という商標登録を取っていたために一時は断念しました。
 しかし、中国産の類似商品(塗り物で、価格が半値程度)が市場に多く出回ってきたことによる影響や景気低迷で、販売環境が厳しさを増してきました。そのため、他の製品との明確な区別を図り、ひとつのブランドとして本物志向の消費者をつかみ需要拡大につなげる事が必要ではないかという意見が出てきました。
 そこで、再度、商標登録に関する調査を実施したところ、登録されていた「大館曲わっぱ」の指定商品は「家具・建具」になっており、本来の主力製品である食器類が指定外であることが分かりました。
 そこで、平成13年5月18日に団体商標登録を出願し、今年の4月19日付で特許庁長官から登録証が交付されました。全国に195件指定されている伝統工芸品で団体商標登録は初めてになります。

  

■■■今年度から市内の小・中学校の生徒を対象に出前で講習会を開催していると伺いましたが、その内容を教えて下さい。

 この事業は(財)伝統的工芸品産業振興協会が昨年度より実施している「児童・生徒に対する伝統的工芸品教育事業」の助成を受けて実施しています。事業内容は、伝統的工芸品に関する講習会と製作体験実習の2本立てとなっています。小学校2校、中学校4校の計6校で実施する予定です。体験学習では曲げわっぱを製作します。曲げわっぱの製作というと、小・中学生で出来るのと思われますが、実は小・中学生でも製作できる曲げわっぱの工作キットを使用します。このキットは、3、4年前に小学校から要請があり製作したもので、この時製作していたことが役に立ちました。
 この事業を通して、地元の小・中学生に曲げわっぱの歴史について学んでもらい、曲げわっぱを作ることに興味を示してくれれば、この事業は成功です。伝統工芸品として県外にアピールするだけでなく、地元だからこそ曲げわっぱに対する正確な情報を持ってくれることが、重要だと思います。市民に支持されてこそ伝統工芸品だからです。

■■■理事長は、県内でも数少ない員外理事長として活躍しておりますが、今後の目標をお聞かせ下さい。

 縁があってこの組合の事務局長として勤務し、6年前に組合員に押され、理事長を仰せつかりました。
 私としては、第三の人生を送る場としてのんびり出来ればと考えて来たわけですが、なかなか思うようには行きませんでした。曲げわっぱの業界には精通してなかったわけですが、営林局及び営林署勤務で木材に対する知識があること、これまでの人脈が広かったことや員外であることによる平等性を組合員の方々が支持してくれたので、理事長を引き受けました。
 業界は、原材料である天然秋田杉の減少が大きな問題であり、平成19年以降にも資源が確保されることに期待しています。一方、造林秋田杉での製作技術も磨いていかなければなりません。消費者の方は、天然秋田杉と造林秋田杉での製作に大きな差はないと考えていると思いますが、きめ細かい柾目と荒い柾目では、曲げわっぱの表面を削る厚さが違ってくるため、強度的な問題が生じます。当然見た目の綺麗さに差が生じます。そのラインが130年以上の年輪が必要になるわけで、継続して安定的な原材料の確保が必要です。そのために、東北森林管理局への陳情等を行っています。
 夢はやはり「伝統工芸館」の建設です。業界の今後の発展や大館市の観光拠点として是非必要な施設です。しかし、組合単独では実現できるものではありません。やはり市等の行政の協力なくしては建設は困難ですが、市民の誇れる伝統工芸品として常に触れ合える場として実現したいものです。


→目次へ

Copyright 2002 秋田県中小企業団体中央会
URL http://www.chuokai-akita.or.jp/